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「ねえ、」と朝食の後でよし子さんが言いました。「私の親戚に崇(たかし)さん という名前の人がいるんですが、崇という字は『たたり』とも読むでしょう? 何で そんな不吉な文字を名前に用いるんでしょうねえ。」 「えーっ? 崇を『たたり』とよむんですか。?」「はい、ご自分で確かめて見て 下さい。」と彼女は壁際の小テーブルに置いてある御愛用の広辞苑をゆびさしました。 「どれ、どれ。」と私が「たたり」を引いてみると、あーら、本当に「たたり【崇】 たたること。....」と書いてあるように見えます。 「おかしいなあ。崇という字は『崇高』のように非常に良い意味の文字だとばかり 思っていたけれど、『たたり』という意味もあるのなら、名前に用いるのは妙だなあ 。」と私も首を傾げてしまいました。「その字の本来の意味を調べていただけません か。」とよし子さんが、これまた彼女が愛用している『三省堂・新漢和中辞典』を差 し出しました。「たかし」の読みで掲載ページを調べて「崇」の項目を見たら、「あ ーっ」と驚きました。広辞苑では活字が小さくて見分けが付かなかったのですが、漢 和辞典では見出しの漢字が大きな活字で印刷されているので良く分かります。「崇」 の項目には、「【崇】慣スウ 慣ス 漢シュウ 呉ジュ .... 祟 スイ とは別 ..」と書いてありま した!! 巻末の音引き索引を使って「祟(スイ)」を引いてみると、「【祟】漢・呉 ス イ(ヰ) .... 崇 スウ とは別 ○もと示5 @タタる。わざわいをする。Aタタリ ▲大_, 災_,怪_,神_,禍_」となっていました。 「わーっ、小さい活字で見ると区別が出来ないけれど、『崇』は『山』の下に『宗』 、つまり『山』と『ウ』冠りと『示す』になっていて、一方、『祟り』の方は『出る』 の下に『示す』、つまり『山』の下にまた『山』そして『示す』になっているから、 真ん中の『ウ』と『山』の違いなんですよ。」と私が説明すると、よし子さんは、「ま あ、そうだったんですか。私は永年の間、妙だ、妙だ、と思っていたんですよ。だっ て、『祟り』なんていう文字を人名に使うなんて不吉じゃありませんか。でも、『祟 り』と『崇し』では実は『ウ』と『山』の違いが有ったんですね。これで納得が行き ました。どうもありがとうございました、旦那様。」と深々とお辞儀をしました。彼 女も相当な『言問女』です。
kshibata@vin.sm.fukuoka-u.ac.jp
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