このページの通常版をご覧になりたい方はこちらをどうぞ
情報数学研究室 柴田勝征研究室 言問い亭メニュー

言問い亭 4月号 (2004年)



 言問い亭4月号 小目次 

  • 第297号 −− 英和機械翻訳における文脈依存性 I-7 −− 2004.04.26

  • 第292号 −− 道なりに(2) −− 2004.04.11

  • 第291号 −− 道なりに −− 2004.04.07

  • 第290号 −− 英和機械翻訳における文脈依存性 I-6 −− 2004.04.02





     第293号 −− 英和機械翻訳における文脈依存性 I-7 −− 2004.04.26

     For an English summary 英語版, click here!

     今回は、中学1年生用の5冊の英語教科書の第7課に現れる文脈依存の例を考察する。 1.「those」の訳語は「あれらの」か「それらの」か(その1)  このシリーズの第5論文[2]では、「that」の訳語として「あの」と「その」の選択を 検討したが、その複数形として、「those」には「あれらの」と訳すか「それらの」と訳 すか、の問題がある。論文[2]の中の例文では、「that」に続く名詞が1つ前の文の主語 とも目的語とも異なっている事から「あの」を選択したが、今回は、「those」について の同様の例を本節で、また反対に、1つ前の英文の情報によって「あれら」が捨てられ て「それら」が採用される例を以下の第5節で示す。 Kenji: Who are those girls? ............. (1) 健二「あれらの少女は誰ですか?」 Sam: They are my friends. We go to the same school. ........ (2) サム「彼女達は私の友人です。私達は同じ学校に行きます。」  上の例文(1)の中の「those」の訳語を選択する規則は、 88;それらの;2;E0=those;E1<>people;DJ1<>SJ$;DJ1<>OJ$;DJ1<>SJ2$;DJ1<>OJ2$;E1<>*BS; E1<>*BS2;D1<>回; d340; この規則では、「those」に続く名詞が1つ前の文の主語とも目的語とも異なり、2つ前 の文の主語とも目的語とも異なり、さらには1つ前の英文(BS)にも2つ前の英文(BS2)に も含まれていない事から、その名詞は既出のものを指しているっているのではなく、新 しく何か複数のものを提示している事から、「それらの」を捨てる、すなわち「あれら の」を採用している。 2.「they」を「彼女達」と訳す例(その2)  本シリーズの前回の論文[3]では、「they」の訳語として「彼女達」が選択される例を 示したが、その訳語は訳文生成過程で消去されてしまった。今回は、「they」の訳語「彼 女達」が最終的な訳文まで残る例を示す。  前節の例文(2)の先頭の 「they」の訳語選択の規則は 22;*彼女;2;SZ=W;SZ=x;OZ<>x;EA<>,; D990; となっていて、1つ前の文の主語の属性に 'W' (女性)および 'x' (複数形語尾の 's' が付いている)、そして1つ前の文の目的語の属性には 'x' が無い事から、この文の 「they」の訳語として「彼女達」を選択している。実際、1つ前の文の主語は「あれら の少女」(those girls) である。 3.「Mrs.」を「夫人」と訳す例  敬称の「Mrs.」には、「さん」「夫人」「先生」という3つの日本語訳語が登録して あるが、"Mrs. AA" が "Mr. AA" と対になって出現した場合には、「AA夫人」と翻訳す る事にする。 Taro: How do you do, Mr Hill? 太郎「始めまして、ヒルさん。」 Becky's Father: Nice to meet you, Taro. ベッキーのお父さん「あなたに会えて嬉しいです、太郎。」 Taro: How do you do, Mrs Hill? ........ (3) 太郎「始めまして、ヒル夫人。」  上の例文(3)の中の "Mrs." の訳語を選択する規則 88;*夫人;2;E0=Mrs;E-1=How do you do ,;T1=K;E1=*BS2; BS2=*How do you do, Mr; d130; は、適用される為の前提条件として、1つ前の英文(E-1)が "How do yo do, 誰々" で あり、Mrs. の直後の単語の属性(T1)が'K'(固有名詞)であり、その固有名詞が2つ前 の英文(BS2)にも含まれていて、しかも2つ前の英文が "How do you do, Mr. 誰々" と いう部分を含んでいる事を確認している。それら全ての条件が満たされた時、「Mrs.」 の訳語候補の内から「夫人」を選択する、という規則である。 (注)「はじめまして、ヒル夫人。」という言い方は中学生の挨拶としては実は不自然 である。英語の "Mrs. Hill" の部分を無視して、単に「はじめまして。」というのが いちばん自然な言い方だと思われるが、ここでは、そこまでの訳は要求しない。 4.「too」の指しているものの確定(代名詞目的語の場合)  このシリーズの第4論文[1]において、他動詞の目的語の名詞に 「, too」が後続した 場合に、「too」に対応する助詞の「も」が目的語に付くのか、それとも主語の方に付く のかを検討したが、目的語が代名詞の場合には、同じ方法は使えない。以下の例を見て みよう。なお、中学校英語教科書の内で、「New Crown」だけは、末尾の「, too」のカ ンマを省いて「too」と書いている。どちらの表現も英米で実際に使われているようであ る。 Tom: Yes, I can. They are ki, hayashi and mori. トム「はい、出来ます。それら(それらの単語)はki、hayashiとmoriです。」 Kumi: Right. They mean 'tree', 'woods' and 'forest'. Do you know this too? .............. (4) 久美「そのとおりです。それらは’木’、’林’と’森’を意味します。 あなたはこれも知っていますか?」  上の例文(4)の訳語をボトムアップに形成してゆく過程で、「3を知っている(る 4)」 +「2これ」+「6もまた」を結合して動詞句「3これも知っている(る 4)」を生成する文法 規則 5;326;3;1;LT;J3=?;E2=too;E2<>* ;E-1=you;BS=*Yes, I can.;J0#-格;J0#VR;J1#+も; J2#Z; 9662; では、その適用条件として、先ず、文末にあって(LT)、次の語が '?' だから疑問文で、 主語と考えられる1つ前の単語(E-1)は 'you' である事を確認している。従って、 「あなたもこれこれを何々しますか?」か「あなたはこれこれも何々しますか?」の 判定が必要になっている。ここで、1つ前の英文が "Yes, I can." を含んでいれば、 「あなたはこれこれも何々しますか?」の選択するように定めた。1つ前の文の主語が 「I」であり、現在の文の主語も同一人物を指す「you」であるから、格助詞「も」は既 出の(代)名詞には付かない、という原則によって、主語ではなく目的語の方に「も」 を付けるわけである。 5.「those」の訳語は「あれらの」か「それらの」か(その2)  第1節では、「those」に続く名詞が1つ前の文の主語とも目的語とも異なっている事 から「あれらの」を選択する例を示したが、本節では、反対に、1つ前の英文の情報に よって「あれらの」が捨てられて「それらの」が採用される例を示す。 Tom: English has many riddles like this. トム「英語にはこのような多くの謎があります。」 Kumi: Good. I like those word games. .......... (5) 久美「それは好いですね。私はそれらの言葉遊びが好きです。」  上の例文(5)の中の 「those」 の訳語候補を絞る規則は 88;*それらの;2;E0=those;E-1=like;BS=* many ;BS=* like this.; d337; となっている。「those」 が修飾している 「word games」 という単語そのものは1つ 前の英文には直接現れていない(「riddles」 を言い換えている)が、1つ前の英文(BS) が「... many ...」と「... like this」 という部分を含んでいることから、「those」 に後続する名詞句は1つ前の文で言及されたものを指していると判断し、「それらの」 を採用するわけである。 6.「good」の訳語「好い」「よろしい」「善」の選択  英単語「good」には形容詞の「好い」、間投詞の「よろしい」、名詞の「善」という 3つの日本語訳語が登録してある。会話文で、相手が言った事に対して "Good." と返事 をした場合には、普通は、間投詞の「よろしい」を選びたくなるが、"It's good." の省 略形と見て「好い」を選んだ方がよい場合もある。前節の例文(5)のような場合である。 前節の例文(5)の先頭部分の単文の「good」に対する日本語訳語は、以下の2つの選択規 則が連続して働いて「好い」に決まる。 5X;*好い;2;E0=good;FT;LT;DJ-1=「;E2=I;E3=like;BS=* has many ;BS=* like this.; V860; Xよろしい ; 5好い 15;*好い;2;E0=good;FT;LT;DJ-1=「;E2=I;E3=like;BS=* has many ;BS=* like this.; 9380; 5好い ; 1善 これらの規則の適用条件が要求している事は、会話文の先頭にある('「'に後続する) 1単語のみからなる文で、次に "I like" が続く、ということ。つまり、"Good. I like ..." という状況になっている。しかも1つ前の英文(BS)が ".. has many ..." と ".. like this." という部分が含まれている。つまり相手は、「こういうXXXをたくさん持っ ています。」と言ったことに対して、「好いですねえ。私もXXXが大好きです。」と答え ている状況である、と判断して候補「好い」を採用している。  そして、日本語訳語生成の過程で下の文法規則によって「それは」と「ですね」が付 加されて、「それは好いですね。」と変化する。 1;5;X;0;FT;LT;E0=good;DJ-1=「;E1=.;PJS=があります。」;J0#+ですね;J0#それは+; 1427;  なお、この文法規則では、1つ前の文の日本語訳文(PJS)が『があります。」』とい う会話文の末尾を含んでいることを適用条件の1つとしている。そのような文脈におけ る返答の会話文の先頭の 「Good. ...」は、単に辞書登録訳語「好い」をおいておくだ けでは不十分で、「それは好いですね。」のように前後に言葉を添えてやる事によって、 自然な会話の文章になるわけである。 7.「remember」の訳語「おぼえている」と「思い出す」  英語の動詞「remember」には「おぼえている」と「思い出す」という2つの訳語が登 録されている。「おぼえている」は記憶の持続を表し、「思い出す」は忘れられていた 記憶が再びよみがえる事を表す。それらは、例えば次のように用いられる。 Kumi: What day is it today? 久美「今日は何曜日ですか?」 Tom: It's Friday. This afternoon our class collects cans. Do you remember? ..................... (6) トム「金曜日です。今日の午後私達のクラスは缶を集めます。 あなたはおぼえていますか?」 Kumi: Now I do. Thanks. ..................(7) 久美「今思い出しました。ありがとう。」  上の例文(6)の中の「remember」の訳語を選択する規則は、 33;*をおぼえている;2;E0=remember;J1=?;E-1=you;E-2=do;E-3=.; M230; というものであって、何かの陳述に続けて Dou you remember? という疑問文が出現した 場合には、「あなたはおぼえていますか?」と訳す事にする、というものである。この 規則には、前の文から引き継がれる文脈に関する条件は含まれてはいない。  ところが、面白いのは、その解答文(7)である。代動詞「do」が使われているから、 これは1つ前の文の動詞「remember」を代行している。英語ではそれだけの事なのだが、 日本語では、質問の時の「remember」と解答の時の「remember」では意味が異なってい る。だから、日本語訳語生成に当たって、普通の場合のように、1つ前の文の動詞の日 本語訳語を記憶してある変数の値(「おぼえている」)を利用するわけには行かない。 そこで、解答文(7)の生成過程で用いられる文法規則では、疑問文 "Do you remember?" に対する解答文であることを確認したうえで、1つ前の文の動詞「おぼえる」を使わず に、「do」の訳語を直接「思い出しました」と書き換えてしまう。 3;24;X;0;LT;E0=I;E1=do;E2=.;E-1=now;DJ-2=「;BS=Do you remember?;J0#Z;J1#Z; J1#+思い出しました; 6217; 8「It is 日時.」の「It」は形式主語か、「それ」という意味か。  前項の例文(6)の先頭にある「It's Friday.」の中の「It」は、通常は形式主語とみな され、日本語訳語を生成してゆく過程で「It」の訳語「それ」は消去されてしまう。 「2それ」+「3である」+「1金曜日」=>「X金曜日です」を具体的に実行する文法規則は 3;231;X;1;FT;E0=it;T1=v;T2=t;E2<>* on;E3<>that;PJS<>*の日が来ました。; J0#Z;J1#DES; 6910; となっているが、この規則は適用条件の1つとして、1つ前の文の日本語訳文が「の日が 来ました。」を含んでいないことを要求している。1つ前の文がこのようになっている 場合には、「It is 日時.」の訳を「それはXXX(日時)です。」としなければならない ことがあるからである。 9.「now」は「今」か、「さあ」か  「now」には「今」(副詞・名詞)と「さあ」とうながしたり話題を新しく切り出した りするときに用いる間投詞としての使い方があるが、前々節の例文(7)の場合の「now」 の訳語の決定は、非常に露骨に、 6X;*今;2;E0=now;FT;E1=I;E2=do;E3=.;DJ-1=「;BS=Do you remember?; Z937; 6今 ; Xさあ という規則で、1つ前の英文(BS)が「Do you remember?」であり、それに対する解答文 「Now I do. ...」の先頭の 「Now」は「今」と訳す、と定めている。これは、1つ前の 文の動詞が「remember」という特殊な動詞である、という語彙的特殊性が無いと、一般 的には適用できない例が十分ありうると思われるからである。 引用文献 [1]柴田勝征: 英和機械翻訳における文脈依存性 I-4. http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/2004_3.html#282go [2]柴田勝征: 英和機械翻訳における文脈依存性 I-5. http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/2004_3.html#283go [3]柴田勝征: 英和機械翻訳における文脈依存性 I-6. http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/2004_3.html#290go


    この記事に関するご感想・ご批判・コメント・お問い合わせなどは下記アドレスまでお 願いします。

    kshibata@sm.fukuoka-u.ac.jp

    4月号小目次 へGO!




     第292号 −− 道なりに(2) −− 2004.04.11

     For an English summary 英語版, click here!

     前回の「言問いメール291号/道なりに」に対して多くの方からワーッと一斉にご 意見・ご教示が寄せられました。  まずNHKの浦谷さん。「『道なり(に)』を聞いたことがないと言われてビックリ。 そこで、日本語大辞典(第2版、講談社)を引いてみました。載ってます。「道形」で 「道の走っているそのまま」とあります。大辞林(三省堂)にも「道形」の記述があり ますよ。」  それで私も確認してみましたが、ご指摘のように、両辞書に載っていました。私が見た 「広辞苑」(岩波)、「学研国語大辞典」「新明解国語辞典」(三省堂)、「大言海」 (冨山書房)、「広辞林」(三省堂)、新潮国語辞典、「現代新国語辞典」(三省堂)、 「大辞典(全26巻)(復刻版)」、「日本国語大辞典 第1版(全20巻)(前回全 28巻と書いたのは、上の2つの辞書についての記憶の混乱による誤りでした)」には 載っていなかったのですが、たしかに載っている辞書もありますね。「角川国語辞典」、 「現代国語例解辞典」(小学館)にも載っていました。ここで興味深いのは、1972年発 行の「日本国語大辞典 第1版(全20巻)」には載っていないのですが、同じ辞典の 第2版(全14巻、2002年発行)には収録されていることです。載っている辞典と載っ ていない辞典の境目は、相当のぶれはありますが、だいたい1980年〜1990年くらいで線 引きが出来るようです。これは、過去30年分くらいの「現代用語の基礎知識」のよう な資料を年度別に当たってみれば確認できるのではないかと思います。つまり、私の推 測では、「道なりに」はかなり新しい日本語表現のように思われます。  次に、都立大学の荻野さん。「 三省堂国語辞典第三版には、「みちなり」が普通に 載っています。「道形」という書き方は知りませんでした。「道なり」が国語辞典に載 ることが少ないのは、「道」+「なり」で解釈できるからでしょう。」 この最後の部分のご意見には賛成しかねます。「みちなり」を「道形」と書くという ことは、辞書で調べるか、誰かに教えてもらわなければ、普通の人には絶対分かりませ ん。つまり、「みちなり」は「道」+「なり(形)」とは分解できない、付加的な意味 を持っています。「道なりに行く」という場合には、その道は直線的ではなくかなりグ ネグネとカーブしており、しかも途中にその道を横切る十字路などもあるけれども、そ れにもかかわらず、その曲がりくねった道を忠実に行け」というのが厳密な意味のよう で、それを「道なりに行け」=>「道の形通りに行け」と推測するにはかなり飛躍が必要 ではないでしょうか。 しかし、荻野さんの説に従ったと思われる記述の辞書もありました。大修館「明鏡国 語辞典」では、「道なり(に)」の項目はありませんが、接尾辞「なり」の「それに即 応した、の意」として用例に「道_に行く」が書いてありました。横浜国大の北田さん からも同様の指摘を受けました。  埼玉大学の矢野さん。「私は京都(出身)ですが、本来この言い方は無いと思います。 東京に出てきてから聞いたのか、大学時代に京都で聞いたのかは忘れましたが、初めは かなり異様に感じました。案外新しい言葉ではないかと思ったのですが、奥様が普通の 言い方だと思われるというのは意外です。方言が入ってきたということでしょうか。」 申し訳有りません。私は妻の説明を誤解していました。彼女は山口県の出身ですが、 山口では「道なり(に)」の表現は使われないそうです。彼女が北関東で働いていると きに、車で走っていて通行人に道を尋ねたときに「道なりに行けばよい」と言われて、 意味が分からず問い直した経験があって、それでこういう表現があることは知ったが、 それ以降は一度も聞いたことはないそうです。矢野さんのご推測通り、たぶん新しい言 葉なのでしょう。「時代別日本語辞典」の「室町時代」の巻を見てみましたが、載って いませんでした。  金沢の春田先生から。「小学館『日本方言大辞典』下巻 p.1766 1985【なり[形]U 《接尾》B方向、方角を示す。鳥取市「東なりに行きて、南なりに曲がり、それから右 なりに折れて左なりに行く」とあります。なお@動作を表す語について、その動作の直 後である意を表す。A体言、あるいは用言の連体形などを受けて、その状態でいる意。 またはそのものを含む意を表す。C人や動物を表す語に付いて、の方へ、の所への意を 表す】とあります。「道なりに」は「方向、方角」を表しているようです。鳥取市を指 摘してありますが、山口生まれの奥さんも理解されるのな本州西部地方の方言かもしれ ませんね。北陸では言わないようです。」 私の妻の証言については、上の矢野さんの項に書いたように訂正します。 私も『日本方言大辞典』を見てみましたが、形式名詞あるいは接尾辞の「なり」は、 日本各地のきわめて狭い範囲でそれぞれに独特の意味を持った使い方がされているよう ですね。  福岡大学の地元出身の同僚に「道なり(に)」の表現について尋ねてみた感触では、 福岡では原則として使わない、ただし東京標準語を話している、という意識で話をして いるときには使うことがあり得る、という人と、そんな言い方は今まで全然聞いたこと がない、という人に分かれました。ともかく、博多弁・福岡弁には、この言い方は無い、 ということです。  以上まとめると、九州・山口・北陸・京都などでは本来使われない言い方である。使 われるとすれば、教育やテレビなどの影響で関東言葉(標準語)として意識して使われ る可能性がある。関東(東北も一部含む)でも、比較的新しい言い方で、1970年以前の 用例を探すのは難しいのではないか、というところです。


    この記事に関するご感想・ご批判・コメント・お問い合わせなどは下記アドレスまでお 願いします。

    kshibata@sm.fukuoka-u.ac.jp

    4月号小目次 へGO!




     第291号 −− 道なりに −− 2004.04.07

     For an English summary 英語版, click here!

     イタリア観光旅行中に、ミラノおよびフィレンツェの現地在住日本人ガイドさんが、 それぞれ「道なりに行くと」という表現を使いました。私にとっては生まれて初めて聞 く表現でしたが、「たぶん、道に沿って行くと」という意味だろうと見当は付きました。 山口生まれの妻にとっては、ごく普通の言い方だそうです。日本に戻ってから、手元に ある全ての国語辞典、大学図書館にある日本語大辞典(全28巻)を見ても、「道なり (に)」は載っていませんし、助詞・助動詞の「なり」および動詞の「なる」の活用形 も全て見てみたのですが、納得できる説明は見つかりませんでした。  「関西方言なのかなあ」とも思ったのですが、そうではないようです。というのは、 インターネットのGoogle検索で「道なりに」を引いたら44300件も出てきて、しかも内容 を見ると、京浜地方の観光案内とか、仙台にある教会の行き方とか、あらゆるところで 使われているようで、「知らぬは我が身ばかりなりけり」みたいな感じでしたが、それ では、どうして辞書には載っていないのでしょうか。辞書に載っていた例では、「弓な りに」の「なりに」(〜の形をして)ぐらいが一番近い例かとも思いますが、やはり違 いますね。「道」+「なりに」をどう考えたらよいのか、ご存じの方がいたら、教えて ください。


    この記事に関するご感想・ご批判・コメント・お問い合わせなどは下記アドレスまでお 願いします。

    kshibata@sm.fukuoka-u.ac.jp

    4月号小目次 へGO!




     第290号 −− 英和機械翻訳における文脈依存性 I-6 −− 2004.04.02

     For an English summary 英語版, click here!

     今回は3社5種類の中学1年生用英語教科書の第6課を取り上げる。  よく、「算数・数学は積み上げてゆく学科だから、基礎が分からないと、途中からつ いて行けなくなる」と言われているが、むしろ中学英語こそ「積み上げ学科」であって、 第1課で出てきた適訳語選択規則や訳文生成文法規則は第2課以降でも使われるし、第 1課、第2課で使われた規則は第3課以降でも頻繁に使われる、という風に累積してゆ く。だから、今回解説するのは、第6課になって初めて現れる現象についての規則達で ある。 1.'they' および 'their' の訳語の選択 She is an English teacher. 彼女は英語の先生です。 We like her class. 私達は彼女の授業(クラス)が好きです。 Are Ken and Kumi in the same class? 健と久美は同級生ですか? Yes, they are. ......... (1) はい、そうです。 Who is their homeroom teacher? ...... (2) 彼等のホームルームの先生は誰ですか? Miss Kato is. .......... (3) 加藤(加東)先生です。 我々のUS式翻訳システムは 'they' の訳語として「彼等」「彼女達」「人びと」「そ れら」を用意してある事は前回の論文で解説した。これまでに、「それら」、「人びと 」、「彼等」が採用される例を見たが、今回は「彼女達」が採用される例を見てみよう。 上の例文(1)の中の 'they' の訳語を選択する規則は、 22;*彼女;2;SZ=W;SZ=F;OZ<>x; E000; であって、1つ前の文の主語の属性に 'W' (女性)と 'F' (接続詞 and あるいは 'or') があり、1つ前の文の目的語の属性に 'x' (語の末尾に複数形の 's' が付いている)が 無ければ「彼女達」を採用する、というものである。上の場合、1つ前の文の主語は 「健と久美」で「久美」の属性が 'W' であり、「と」(and)の属性が 'F' となってい る。「健と久美」のように男女とも含まれている集団を「彼等」と表しても良いのだが、 本システムでは「彼女達」と呼ぶフェミニストの態度を取っている。 しかし、翻訳のプロセスが進行してゆく途中で、この「彼女達」という訳語は文法規 則によって消去されてしまい、最終結果は「はい、そうです。」となる。  'they' の訳語の多様性によって、'them' や 'their' の訳語も同じだけの多様性を生 じる。上で、(1)に続く(2)の文中の 'their' の訳語を選ぶ時に適用される規則 d620 は 88;*u;1;E0=their;E1<>impact;SO=h;SO=FxX; d620; 8彼等の ; 8それらの 英単語 'their' の訳語が「8彼等の」に確定しました。 というもので、'their' の直後の単語が 'impact' ではなく、1つ前の文の主語または 目的語の属性(SO)が 'h' (人間)および 'F' または 'x' または 'X' (いずれも結果的に 複数を表す)ならば人間属性 'u' を持つものを選択せよ、という規則である。この規則 の適用以前に、別の規則によって「彼女達の」が捨てられているので、結果的に「彼等 の」に確定した。同じ「健と久美」に照応する(1)の 'they' と(2)の 'their' が、一方 は「彼女達」で他方は「彼等の」となるのは形式的には矛盾しているが、男女両方が存 在する集団を「彼女達」と呼ぶか「彼等」と呼ぶかについて、本システムではそれほど 極端な厳密性は要求しない事にしている。 2.「Mr.」「Mrs.」「Miss」などの敬称を「先生」と訳す例 中学英語教科書のいわゆる classroom English では、「XX先生」という意味で「Mr. XX」などの称号が使われることは、このシリーズの第3回目の論文[1]で述べた。今回 は、実際に「Miss」が「先生」と訳される例を示す。  前項の例文(3)の中の 'Miss' の訳語を決めている適訳規則は 88;*先生;2;T0=M;FT;J3=0;OZ=e;SJ2=先生; d700; 8さん ; 8先生 英単語 'Miss' の訳語が「8先生」に確定しました。 であるが、この規則は、Mr. や Mrs. 等の称号属性'M'を持つ単語に対して、それが文頭 にあって(FT = FirsT)、1つ前の文の目的語の属性OZが「教育・文化」属性'e'を持ち、 2つ前の文の主語(ただし、2つ前の文に名詞が無かったり(代名詞主語)した場合は、 さらに遡った文の主語の記録がそのまま残っている)の日本語訳語(SJ2)が「先生」であ る場合に、訳語として「先生」を採用する。実際、この時点での変数 SJ と SJ2 の値を 見てみると、 sj = 1健と久美, sz = ?OhKZFOhKWZ sj2 = 1先生, sz2 = Ouehey人, となっている。 3.'there are/is' を「いる」と訳すか、「ある」と訳すか。  中学1年英語教科書では、第6課から 'there are/is' 構文が登場する。'There are/ is' は、存在する対象が人間や動物の場合には「がいる」と訳し、無生物や植物の場合 には「がある」と訳さなければならない。疑問文に対する解答文の場合には、存在する 対象を表す名詞句を省略する事が普通だから、「がいる」か「がある」かを判定するに は、どうしても1つ前の文章の日本語訳文を参照しなければならない。実例で見てみよ う。 B: Are there many clubs in your school? B「あなたの学校に多くのクラブがありますか?」 T: Yes, there are. Ellen, Roy, and I belong to the International Club. ................... (4) T「はい、あります。エレン、ロイ、そして私は国際クラブに入っています。」 B: What do you do in the International Club? .............. (5) B「国際クラブであなた達は何をしますか?」 上の例文(4)の 'there are' の訳語を選択する適訳規則は 33;u;1;T0=E;FT;SZ<>ah;JZ<>1;TZ<>ah; H060; 3がある ; 3がいる 英単語 'there are' の訳語が「3がある」に確定しました。 となっている。これは、'there are/is' (属性'E')に対する規則で、文頭にあり(FT) 、1つ前の文の主語の属性が 'a' (animal 動物)や 'h'(human 人間)を含まず、現在 の文の後方にも 'a' や 'h' 属性を持つ単語が存在しなければ、'u'属性(human 人間) を持っている方(即ち「がいる」)を捨てよ、というものである。この時点での前文、 前々文の主語情報は sj = 1クラブ sz = ?xxeByつ sj2 = 1サッカー部, sz2 = emyつ なので、動物や人間ではない。 4.'you' を「あなた達」と訳す例  前項の例文(5)の場合、「what do you do」は成句として辞書に、「あなたは何をしま すか」「あなたは何をしていますか」「あなた達は何をしますか」の3つが登録されて いる。これらを絞る適訳語選択規則は、 XX;*あなた達は;2;E0=what do you do;J-1=|;BS=*, and I ;SZ=h;SZ=F; e772; となっており、ひとつ前の英文が「, and I 」という文字列を含んでいて、1つ前の文 の主語の属性が 'h'(人間)および 'F'(接続詞 and または or)を含んでいる場合は、 複数形の「あなた達は...」を選択する。 5.'city' の訳語「都市」と「街」  普通名詞 'city' の日本語訳語は通常は「都市」と訳すが、"city of Edo" (江戸の 街)のような場合もある。1つ前の文の中の 'city' が周囲の文脈から「街」と訳され た場合には、その次の文の中の 'city' も「街」と訳す必要がある可能性があるから、 'city' の訳語として「都市」を選択する規則には、「1つ前の文の訳文(PJS)には『街』 が含まれていない」という条件を付けておく。 Everyone is very busy. みんながとても忙しいです。 It's an interesting city. .................. (6) それはおもしろい都市です。 11;街;2;E0=city;E1<>of;E-1<>this;EA<>part;TA<>g;PJS<>街; 0825; 1都市 ; 1街 英単語 'city' の訳語が「1都市」に確定しました。 6.動詞 'watch' の訳語を「を見る」とするか、「の番をする」にするか。  動詞としての'watch' には、辞書に「を見る」と「の番をする」の2つが登録してあ る。 Alice watches Humpty. ............... (7) アリスはハンプティーを見ます。  上の例文(7)の適訳語を絞る規則は、 33;*を見る;2;E0=watch;T0<>pGP;J1=1;T1=h;T1=K;J2=0;VZ<>ijk; O522; 3を見る ; 3の番をする 英単語 'watch' の訳語が「3を見る」に確定しました。 となっている。誰かが誰か(固有名詞)を 'watch' していて、前の文の動詞の属性に自 動詞も他動詞も記録されていない時には、「を見る」の方を撰ぶ、という規則である。 誰かが誰かの番をする、ということもあり得るだろうが、その時には、その状況を説明 する文が前にあるはずだから、前の文の動詞の属性に自動詞、または他動詞の属性が記 録されているはずだ、という事を根拠にしている。そういう状況説明が無くて、いきな り誰かが誰かを 'watch' する、という文が出てきた時は「を見る」の方が可能性が大き いというわけである。  上の例文は「不思議な国のアリス」の一部分だから、当然そのような文脈があるわけ だが、ちょうど章(あるいは節)が変わった最初の文なので、前の文の情報が記録され ていない。US式システムでは、章や節が変わると、前文情報を全てキャンセルしてゼロ にセットし直すのである。上の例文(7)は、ちょうどそのような、節の変わり目に位置す る文であったために、前文情報がすべてゼロに戻されていたのである。                引用文献 [1]柴田勝征: 英和機械翻訳における文脈依存性 I-3. http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/2004_2.html#281go


    この記事に関するご感想・ご批判・コメント・お問い合わせなどは下記アドレスまでお 願いします。

    kshibata@sm.fukuoka-u.ac.jp

    4月号小目次 へGO!