第431号
−− R2におけるポテンシャル関数の無限族として眺めた
「街灯」問題−− 2010.04.13
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−− R2におけるポテンシャル関数の無限族として眺めた
「街灯」問題−−−
私が最近考察しているOECD/PISAの「街灯」問題を一般化して、有界凸集合の「灯心」
の存在と一意性の証明に取り組んでいる首都大学東京の今井淳さんから、一般の三角形
の場合の「灯心」の存在と一意性に関する私の証明にギャップがある、というお便りを
いただき、z = - (y - x)2 のように、x軸-方向、y-軸方向の2次微分が負であっても、
最大値集合が1点ではなく、次元を持ってしまう例がある、と書かれていました。
「変だなあ。そんなはずは無いのだけれど・・・」と等高線図を描き、そこに、どの
辺も直線 y = x と平行にならないような3角形 ABC を書き入れ、底辺 BC に平行に移
動した時の最大値を与える点の集合(「灯心弧」)を赤線で記入してみました。
それでやっと理解できました。「公園の明るさの総和積分」では、こういうことは起
こらないのです。「公園の明るさの総和積分」は、ある地点に街灯を立てたときの、公
園内のすべての地点での明るさの総和ですから、当然、公園内に街灯を設置したほうが、
公園外に設置するよりも公園全体が明るくなることは子供でも分かることですから、街
灯が公園の境界上の任意の点から外部の任意の方向へ向かって移動するとき、「明るさ
の総和」は必ず減少します。すなわち、その方向の偏微分は必ず負になります。これが、
物理的な意味づけから出てくる「境界条件」です。従って、その方向に平行な方向に偏
微分したときのゼロ点の集合である「灯心弧」は、3角形の内部を走らなければなりま
せん。上に描いた z = - (y - x)2 の例では、頂点 A に近い、上方の灯心弧は3角形の
周上を走っています。これでは「境界条件」に違反してしまいます。 それでは、上の
境界条件を満たし、かつ、3辺のいずれかと平行に走る線分の上では、1次微分は正の
値から出発し、単調に減少して行き、最後に負の値で3角形の外に出る、という条件を
満たすような関数で、最大点が複数個現れるものが作れるでしょうか?
まず、上に述べた条件から、最大点集合は2次元の部分を含むことはできません。ま
た、開集合で分離される離散的な2点を含むとすると、その中間に鞍点が生じますが、
鞍点に非常に近い点を通り、3辺のいずれかと平行に走る線分を考えると、上に述べた
1次微分の単調性に違反します。残るは、最大値集合が3角形の中央部に、1次元の短
い弧として生ずる場合ですが、「明るさの総和積分」は解析関数、というより初等関数
1 / r2 (平面灯心の場合)あるいは cs / (s2 + r2)3/2 を1回だけ積分した関数です
から、最大値集合がベッタリと次元を持って出てくる、ということは考えにくいですね。
無限回微分可能な滑らかな関数というだけなら、片側に指数関数を使って作った関数の
例が解説書に書いてありますが、単純な有理関数や無理関数の積分ですからねえ。
そうは言っても、やはりちゃんと計算で証明したほうがスッキリするでしょうから、
私が水平方向の偏微分を求めた計算を拡張して、水平方向から任意の角度だけ傾いた方
向で微分しても、水平方向と同様に、1次微分の値が正の値から単調に減少して負の値
で終了するということ、すなわち、任意の方向に移動しても、1次微分のゼロ点は中央
部に唯一つしか存在しないことを示しましょう。
三角形 ABC の辺 AB 上に点 B2 を、辺 AC 上に点 C2 を、線分 B2C2 が右上がりになっ
ているように取る。そうでない場合には、頂点 A, B, C の名前を適当に付け替えればこ
のようにすることが出来るから、このように仮定して一般性を失わない。∠AB2C2 をξ
と置くと (0 <ξ< ∠AB2C)、水平方向に対する線分 B2C2 の傾きは ∠B - ξ と表される。
以下の計算は、私が「街灯は3角形をした公園のどこに設置すべきか」(第1.2節 底
辺に平行な方向に明るさの総和を偏微分する)で計算したのとまったく同じ記号、同じ
順序で行うので、細かい説明は省略します。水平の場合とほとんど同じですが、ただ1
点、光源の足である点 P から底辺 BC まで下ろした垂線の足 H までの距離 h が定数で
はなくなったので、h の微分の項 dh / dθがついて回ることだけが違いです。ただし、
この項は有界変動で、かなり限られた値の範囲でしか変動しません。
水平方向の微分を計算したときと同様に、合成関数の微分で生じたすべての項を計算し
て上式に代入すると、
ここで、上式の第3項の分母を |NS| と表すために、垂線 AD 上の点 S を定義に従っ
て初等幾何学的に定める。ここで重要なことは、2次の偏微分を計算してはいけないこ
とである。「してはいけない」というのは妙な表現だが、そして実際は私も2次の偏微
分を計算したのだが、その結果は非常に複雑な数式となり、その式から「明るさの総和
関数 E(P;ε)」 の幾何学的な性質を読み取ることは至難の業である。それよりは、1次
微分のみに着目して、それが取る正の範囲、負の範囲、ゼロ点の分布を初等幾何学的に
考察する方が分かりやすいのである。
そして、ここが重要なポイントなのだが、3角形内で常に正であることが分っている
c(|AD| - h) / cos2θという因子を無視することである。1次微分の正負を判定するの
には、これらの因子は邪魔である。これらの因子は常に正ではあるが、正の値の範囲内
で変動する。従って、2次微分を計算すると、これらの因子の変動により、正負の範囲
の確定に複雑な影響が発生する。1次微分はずっと正の値を保つ範囲を移動しているの
に、その正の傾きが急勾配から緩やかな勾配に変化するときに、2次微分はゼロ点を取っ
たり負になったりするのである。そのような細やかな変動まで正確にとらえる必要があ
る場合にのみ、2次微分を計算する必要が生じる。我々の当面の目的はそこには無く、
まずは1次微分の正負の範囲をキチッと確定すれば、それでよい。それには、初等幾何
学と高校の「三角比」で十分である。
(θが負の場合の図)
線分 AP の延長と底辺 BC の交点を Q とし、点 Q から線分 B2C2 に平行に引いた直線
が垂線 AD と交わる点を S とする。θ が負またはゼロの場合には点 S は線分 ND 上に
あり、θ が正ならば線分 ND の延長線上にある。点 S を通り、底辺 BC に平行な直線
が割線 B2C2 またはその延長と交わる点を T と置く。
(θが正の場合の図)
いずれの場合にも定義から、割線 B2C2 と垂線 AD の交点を N とすると、
|ST| = (tanθ)|AD| + |ND| / tan(∠B - ξ)
となっているから、
ここで、∠BPC = 2π - ∠APB - ∠APC を用いると、上式において唯一正で無い値を取
りうるラストの因子は
となり、点 P が割線 B2C2 に沿って右方向に移動してゆくとき、辺 AB の近くでは
|B1P| -> +0 だから非常に大きな正の値を取り、それ以降は、第1項と第3項は明らか
に狭義単調減少であり、第2項の第1因子は正の値を取りながら狭義単調減少してゆく。
従って、第2項の第2因子が常に正の値を取りながら、狭義単調減少してゆくことを示
せば十分である。定義から点 S が点 N の下にあることから明らかに |B1P| < |ST| で
あり、
ここで、|AD| / |ST| < tan B < (|AD| - h) / |B1P| が成り立つことは、各点の定義
から初等幾何的に明らかだから、この不等式の両辺に更に 1 / |ST| < 1 /|B1P| を掛け
てやると、|AD| / |ST|2 < {(|AD| - h) / |B1P|2 となって、狭義単調減少性の証明が
完了した。
以上の証明によって、公園の明るさの総和積分関数 E(P;ε) のグラフ曲面は、どのよ
うな方向の垂直平面(x-y 平面に垂直な平面)で切断しても、常に最大点が1個だけ中央
部にあり、その点からどちらの辺に向かって移動しても、かならず値が狭義単調減少す
ることが分かりました。
[ポテンシャル論]とは何か
三角形の灯心の一般化を試みている今井淳さんは、よく「ポテンシャル」という言葉
を使います。「ポテンシャル論」という言葉は聞いたことがあるような気がしますが、
私は「ポテンシャル論」の「ポ」の字も知りません。「ポテンシャル」っていったい何
だろうと思って「数学辞典」を引いてみました。
[ポテンシャル論](英・仏・独・露訳語省略)
[Newtonポテンシャル] 力学においては、n (n ≧ 2) 次元のEuclid 空間 Rn 内で
が力の場を与えるような関数 u のことをポテンシャル (potential) とよぶ。
とくに測度 μに関する積分
がよく用いられ、それぞれ対数ポテンシャル (logarithmic potential)、Newtonポテン
シャル(Newtonian potential)(このよび方は n = 3 の場合に限るときもある)とよば
れる。通常 μは台がコンパクトな非負の Radon 測度とする。これらのポテンシャルは
Rn 内で優調和で、台の外部で調和であり、また逆に調和関数は単一層ポテンシャルと2
重層ポテンシャル(いずれも下記)との和の形に表される。そのため調和関数の性質を
調べることがポテンシャル論とよばれることもあるが、それは調和関数の項目にゆずる。
優調和関数のポテンシャル表示については、=> 劣調和関数。
(以下、省略)
うーん、難しいですね。街灯問題の積分は
でしたから、ニュートンポテンシャルの形をしているのですが、次元を
合わせるためには n = 4 としなければならず、街灯問題では n = 2 ですから、次元が
あいません。なお、「測度μのコンパクトな台」というのが、街灯を設置するべき公園
のことです。付け足しですが、上に出てきたRadon測度というのが、「街灯は三角形をし
た公園のどこに設置すべきか」の付録1「灯心はいかにして発見されたか」の中で言及
した、「医学者が積分論を応用して作ったCTスキャン装置がノーベル医学賞を受賞した」
という、そのRadonです。
数学辞典は多くの項目について網羅的に書かれているので、個々の項目についての記
述が非常にコンパクトであり、私のようなド素人にはチンプンカンプンです。そこで、
もっとくわしく丁寧に書いてある教科書を探して、福岡大学図書館工学部分室に「ポテ
ンシャル論」(二宮信幸)という本があることを知り、借りてきました。
冒頭の「緒言」にいわく、
本書は、共立出版株式会社刊行による共立講座“現代の数学”の中の一巻であって、
ポテンシャル論について書いたものである。本講座は、わが国の大学における数学専攻
者の学部上級学年または大学院初学年の学生を対象とし、数学の各分野においてなるべ
く現代の水準まで読者を導く、というのがその執筆方針である。このような趣旨に沿う
ことは容易ではないが、ともかく書いてみた。ポテンシャル論を本書のような体系にま
とめることについて批判がでるかもしれない。
ポテンシャル論がどのような数学であるかということに関して一般に認識は深くない
ようである。前世紀の後半には Dirichlet 問題の解を探求するための試みがいろいろ行
われた。その中で、Poincare の研究は歴史に残るものである。Poincare に続いて、
Dirichlet 問題の一般化に始まる調和関数論が発生した。測度論・積分論および位相数
学などの現代数学の力で、古典的なポテンシャル論と調和関数論は再検討され、1930年
ごろから生まれ変わり現代にいたった。この間に容量などの研究も新しい立場で行われ、
現在その応用は広い。今日、ポテンシャル論という名前でよばれる数学は、Poincare の
仕事に源を発するポテンシャルの理論と、Dirichlet 問題の一般化に始まる調和関数論
と、容量の研究の三つを主としてふくむ数学の一分野であると理解してよろしい。
本書に書かれたポテンシャル論は、核をもったポテンシャルの理論である。Poincare
の導体ポテンシャルが、核を一般化しても同様に構成できるかどうかということが本書
の内容の主軸をなしている。導体ポテンシャルが構成できないポテンシャルの理論は現
在のところまだ十分にはでき上がっていない。(後略)
昭和44年5月 著者
ということで、なんとなく、すこしだけ雰囲気がわかってきたような気がしました。
上述書「1章 測度とポテンシャル」は、「1・1 測度」から始まり、ユークリッド
空間における完全加法族、ボレル集合、測度(正確には Radon-Stielties の測度)など
が定義され、いくつかの基礎的な定理が証明されています。思い起こせば40数年前、
伊藤清三先生の「ルベーグ積分論」の講義でこんな言葉が出てきたような気がするなあ。
しかし、学生のころは授業を聞いてもちんぷんかんぷんだったから、今回はまじめに読
むか、と思って、いちおう、定理の証明も含めてまじめにフォローして行きました。
「1・2 ポテンシャル」 おっ、いよいよ御待ちかねのポテンシャルが登場だ!
ポテンシャルの定義を与える前に、関数の積分の定義を思い出そう。関数 f(P) が
β-可測で、かつコンパクト集合の上で
0 ≦ f(P) < M ( < +∞)
であるとする。f(P) の正の測度μによる F 上の積分は次のように定義される。
0 = l0 < l1 < l2 < ,……, < ln = M
であるような f(P) の値域を分割し、
Ei = { P; P ∈ F, li-1 ≦ f(P) < li}
として、和 および を考える。max(li - li-1) -> 0 であるように
区間 [0, M] を細分するとき、このいずれも共通の極限値を有する。それを f(P) のμ
によるF 上の積分といい、 で表す。
(中略)
定義1・2・1 ポテンシャル
関数 K(P,Q) は二点 P と Q の関数で、各点 P を固定すれば Q についてβ-可側であ
るとする。測度μによる積分
が各点Pにおいて定義されるとき、この積分を点Pの関数と考えて測度μのK-ポテンシャル
とよぶ。 と とは別物であることに注意しなければ
ならない。
K(P,Q) は核とよばれる。ポテンシャルを表す記号として、K(P,μ) あるいは Uμ(P)
などが用いられる。
ポテンシャル論の研究は、核 K(P,Q) にいろいろな条件を付けないと何もできないこ
とが多い。本書で扱う核は少なくとも次の条件 [A1] あるいは [A2] をみたすものであ
る。
[A1]二点 P と Q の連続関数であって、P = Q では +∞ であってもよいが P ≠ Q では
有限である。
[A2]二点 P と Q の下半連続関数であって、P = Q では +∞ であってもよいが P ≠ Q では
有限であり、かつ P と Q がそれぞれ互いに素なコンパクト集合の上にあるときには、
K(P,Q) は上に有界である。
(以下、途中の数式が多い部分のアップロードは工事中です。)
定理 3.4.8で φ(r) = rα-m と置くと、定理 3.1.1の証明の中で示されたように、上記
の積分はα > 0 のときに限って収束するのだから、φ(r) = rα-m (α≦ 0) を用いて
φ−容量 Cφ(E) を定義しても、すべての有界なボレル集合 E に対してCφ(E) = 0 と
なってしまい、定義しても何の意味も無いことになってしまうというわけです。
そういうわけで、我々の「街灯」問題は、由緒正しき「ポテンシャル論」から見ると、
積分が発散して無限大になってしまい、研究しても意味が無い、と見捨てられていた α
= 0 の場合について、その原因となっている r-2 −> +∞ (r −> 0) を回避するため
に、原点の ε 近傍を削除した台を用いて有限の積分値に還元して解決したことになり
ます。
なお、「街灯」問題が「ポテンシャル論」の例になっていることは、単に、積分の数
式が一致した、というのではなく、次のように「視点を逆転させる」発想によって、物
理的な必然性としてスッキリと理解することが出来ます。
「街灯」問題では、光源から発せられた光が公園内の1粒1粒の砂(あるいはその上
空の、光源と同じ高さの点)を照らしている状況を考えて、公園全体でどれだけの量の
光を光源から受け取っているか、という積分を考えましたが、「光源が公園の各点にあ
る種の作用をしている」という考え方を逆転させて、「公園内の1粒1粒の砂(あるい
はその上空の、光源と同じ高さの点)が光源の位置にある点に何らかの作用をしている」
と考えるのです。
そうして、それらの砂粒全部を合わせた公園の表面という物体(mass)が光源の位置
にある点にどれだけの作用を及ぼしているかを計算する積分を考えれば、それはまさに
ニュートン・ポテンシャルの考え方そのものです。R2 におけるα次のポテンシャル(α
= 0)そのものです。そして、それは「点 P = 点 Q で積分が発散してしまうから、研
究する意味が無い」ということで見捨てられていたケースを、発散する点の近傍を削除
することによって、「研究する意味がある」問題に変えた、ということだと思います。
素粒子論物理学の研究において、積分の発散を回避するために、ある閾値以上のエネ
ルギーを持つ粒子の寄与を除いて(cut off)、低いエネルギーの粒子について積分する
ことによって有限値を得る「繰り込み理論」(朝永振一郎)と同様の考え方になってい
るのではないかと思います。なお、この「発散積分の無限大部分を cut off して有限の
値を得る」という考え方を数学会のトポロジー分科会で私が初めて聞いたのは、もう数
十年前の、今井惇さんの「結び目のエネルギー」を定義する講演でした。
平面灯心の問題は公園を意味する三角形によって定義づけられているので、(R2)3 が
母数空間(moduli space)で、立体灯心の問題は、更に街灯の高さが加わりますから、
パラメータ空間が R+ となります。R2 には、回転や平行移動や原点対称などの変換
(運動)が定義されますが、「街灯」問題は、三角形(公園)と光源の相対的な位置関
係だけで決まりますから、母数空間からポテンシャル関数(明るさの総和積分)の集合
への対応は R2 の変換に対して同変 (equivariant) な対応を与えています。
立体灯心の問題のほうは、積分の発散による困難は全然無くて、ごく普通の2次元ポ
テンシャル関数ですが、「2次元のポテンシャル論」では、3次元およびそれ以上の次
元でのようにニュートン・ポテンシャルが収束しないので、それに代わるものとして対
数ポテンシャルが深く考察されてきたわけですが、「対数ポテンシャルは平面上で考え
るとき大変興味深く応用も広い。対数ポテンシャルは符号一定ではなく、また無限遠点
で −∞ になるので、その研究には独特の困難がある」と二宮さんの「ポテンシャル論」
に書いてありますが、「立体灯心ポテンシャル」にはそのような困難性は全然無いので
すけれど、いままでまったく研究されたことが、本当に無かったんでしょうか?
まあ、数学辞典や二宮先生の本に書いてあるように、「ポテンシャル論」はもともと
Diriclet の境界値問題を解くために生まれてきたものですから、「街灯」問題とは同
じ積分形式になるとは言え、目的も発想も全然違うのかも知れません。
ここで、最後にもう一度、二宮信幸「ポテンシャル論」から、ポテンシャル論の歴史
について簡潔にまとめてある部分を引用して終わりにします。
Dirichlet 問題は19世紀前半に発生し、数多くの数学者によって研究され、解析学
の分野に大きな発展をもたらした歴史的な問題である。Dirichlet 問題とは、領域 D
とその境界 S 上に連続な関数 f が与えられたとき、D の内部で調和な関数 u を求め、
それが S の各点 Q で lim u(P) = f(Q), P ∈ D かつ P → Q となるようにしたい、
という問題である。
Dirichlet 問題の解の存在を示すための考え方として、Gauss と Dirichlet の構想は
きわめて歴史的に意義のあるものである。1840年に Gauss は、空間(平面でもよい)内
の有界領域 D の境界 S の上に連続な密度関数 νを与えて、そのポテンシャルを
ただし dSQ は S の上の点 Q における面積要素、とし
なる量を考えた。そして全質量が一定量、すなわち となるような ν の
中で G(ν) の値が最も小さくなるようなνをμとするとき、Uμ(Q) − f(Q) は S の上
で一定値 c に等しいことを示した。したがって、関数 u(P) = Uμ(Q) − c が Dirichlet
問題の解であることを主張した。また、1850年ごろ Dirichlet は、空間(平面でもよ
い)内の有界領域 D の境界 S の上に連続関数 f を与えて、D 内で正則(各座標につい
て連続な偏導関数をもつという意味)で S 上では与えられた f に等しい関数 v(P) =
v(x, y, z) に対して
とおき、このような関数 v の中で D[v] の値が最も小さくなるようなものを u(P) とす
るとき、u(P) が境界値 f に対する Dirichlet 問題の解になることを示した。しかし、
これらの方法は、現代数学の立場から眺めるとき、理論的な正確さを欠いているように
思われる。
たとえば Gauss の方法において、全質量が一定値 M であるような S 上の連続な密度
関数 ν の中で、G(ν) を最小にするものがあるということは明らかではない。νを ≧ 0
としても明らかではない。あるとすれば u(P) が解であるというにすぎない。また、
Dirichlet の方法において、D で正則で S の上で f と一致するような関数の中で D[v]
の値を最も小さくするものがあるということは明らかではない。あるとすれば、u(P) は
その解であるというにすぎない。
Gauss の方法が正しくないことはその発表後間もなく認識されたようで、1847年には
Thomson や Kelvin などが Gauss の積分 G(ν) の最小値の存在を証明しようと試みた。
しかし成功しなかった。実際に Gauss の方法が修正されたのはずっと遅く、今世紀に入っ
て測度論と積分論が完成されるのを待たなければならなかった。有名な Frostman のテー
ゼにおいて見事にそれが果たされたことは高く評価されるべきである。それはGauss 以
来ほとんど90年ぶりのことである。Gauss の構想は近代ポテンシャル論においても一つ
の源であり、その思想は今日なお生きているのである。
Dirichlet の方法が正しくないことは、1870年に Weierstrass によって指摘され、
1899年に Hilbert によって境界と境界値とに制限をつけて修正された。しかしDirichlet
の構想は Riemann も認めたようにきわめて優れたものである。積分D[v] はDirichlet
積分とよばれ、その最小問題は今日 Dirichlet 原理とよばれている。
Dirichlet や Gauss の方法が理論的な正確さを欠いていることが認められ、それに対
する修正が試みられた19世紀末から Dirichlet 問題に対する新しい研究が始まった。数
多くの研究の中で Poincare の業績は古典的ポテンシャル論の最高峰ともいうべきもの
であり、近代ポテンシャル論を学ばんとするわれわれにとって無知でとおることはでき
ない。Poincare が Dirichlet 問題をどのように考えたかを簡単に解説しよう。
2.2 H. Poincare の業績
Dを三次元空間内の有界領域、その境界をSとしよう。Dirichlet 問題が常に解ける
ならば、D内の点PをとりS上の境界値 f(Q) = 1 / |PQ| に対しても解けるはずである。
その解を HP(Q) としよう。関数
をPを極とする D の Green 関数とよぶ。逆に、S 上の境界値 f(Q) = 1 / |PQ| に対して
Dirichlet 問題が常に解けるならば、S 上の任意の連続な境界値 f に対しても Dirichlet
問題が常に解かれる。つまり、Green 関数の存在と Dirichlet 問題が常に解けること
とは同意義である。このことは、Green 関数がバリヤーとよばれる関数の役目を果たし
ていることによる。バリヤーの概念は Poincare の発見によるものであり、Lebesgue に
よって改良された。Lebesgue は領域Dにおいて Dirichlet 問題が常に解けることと、D
においてバリヤーとよばれる関数が存在する事は同意義であることを示した。
(中略)
Poincare は、有界領域 D が、各境界点を頂点とし内部が D に含まれる円錐形を作
ることができるという条件をみたすならば、Dirichlet 問題が常に解けることを示した。
Poincare はさらに無限領域(ただし境界は有界)に対しても同様な結果を確立した。
この場合には境界条件に無限遠で 0 という条件がさらに付加されるのが通常である。
かくして、Dirichlet 問題が常に解けるためには境界に何等かの条件、たとえばPoincare
の条件があればよいわけである。
しかし、境界に対する条件をすべて除くことは不可能である。1913年に Lebesgue は
Dirichlet 問題の解きえない実例を作った。それは、点 O を中心とする半径1の球から、
点 O において鋭く尖った棘形の図形を取り除いてできる下図のような領域Dであって
(詳細略)D の境界点 O は外部に対して上に述べた Poincare の条件をみたしていな
い。Lebesgue は D の境界上にある連続関数を与えるとき、Dirichlet 問題の解が存在
しないことを示した。
Lebesgue の実例は当時の数学者に少なからぬ驚きを与え、Dirichlet 問題の研究に新し
い方向を与えた。すなわち、Dirichlet 問題の一般化である。
(後略)
(二宮信幸「ポテンシャル論」からの再引用終わり)
ということで、今回は「ポテンシャル論」のお勉強をしました。上に書いてあるような
ことが、単なる「お話し」ではなく、自分でちゃんと計算して確かめられるようになっ
たら、さぞかし楽しいでしょうね。
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